横浜市立大学 医学部 臓器再生医学教室 神経再生医学講座(竹居研究室)

横浜市立大学医学部
臓器再生医学教室
神経再生医学講座
(竹居研究室)
竹居光太郎:
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研究内容

研究内容

1. 神経系の発生(神経回路形成)の分子機構

私達は、自らが開発に携わった光照射分子機能阻害法(CALI・FALI法)を用いて神経細胞の細胞局所領域における分子機能解明に関する数多くの神経生物学的研究を行ってきました。特に、神経系の発生や再生時にだけ観られる神経細胞の軸索先端に存在する成長円錐は、細胞体から遠く離れた局所領域でありながら、周囲の環境因子を感受して素早く運動(軸索伸長運動)を変化させます。この運動の制御機構は神経回路形成に重要な細胞局所領域の運動機構で、その機構に関わる種々の分子機能を明らかにする分子細胞生物学的研究を行っています。近年、CALI・FALI法(右上図)の改変法を独自開発して神経回路形成の重要分子を網羅的に探索する研究を行いました。Simple, Easy and Long-Term FALI法(SELT-FALI法)と名付けた方法を分子スクリーニング過程に適用し、嗅覚情報の2次投射路である嗅索の形成に関わる機能分子を探索しました(右下図)。その結果、嗅索(Lateral olfactory tract: LOT)の神経束形成に必須の新規機能分子LOTUS(LOT Usher Substance)を発見しました(Sato et al., Science, 2011)。

驚いたことに、LOTUSは中枢神経系の再生を阻む主要因と考えられているNogo受容体と結合し、Nogo受容体のリガンド分子NogoとNogo受容体の結合や、Nogo受容体を介する細胞応答を完全にブロックする内在性のNogo受容体拮抗物質(アンタゴニスト)であることが明らかとなりました。嗅索の神経束は、NogoとNogo受容体による反発性の細胞応答をLOTUSが抑制することで成されることが分かり、今迄にない新しい神経回路形成機構を提唱しました(下図)(Sato et al., Science, 2011)。前述のように、NogoとNogo受容体の結合は、成長円錐の運動を停止させたり、成長円錐を崩壊させたりして軸索伸長を阻む作用を惹起します。発生期の神経細胞にNogoやNogo受容体が発現することは知られていましたが、何故これらの影響で軸索伸長が阻まれることなく神経回路が形成されるのかは長らく未解決の問題でしたが、LOTUSの発見によって理解することが可能となりました。LOTUSは神経再生を阻むNogo受容体の作用をブロックする内在性アンタゴニストであることから、現在、神経再生におけるLOTUSの機能を解析し、治療法開発を目指した研究を展開するに至っています(下記)。

2. 神経系の再生(神経修復)の分子機構

事故による脳や脊髄の損傷、緑内障による視神経障害、或は神経変性疾患による脳機能の喪失などに対する機能再建のため、神経再生医療が非常に重要な課題であることは言う迄もありません。そのための再生医学研究が世界中で行われ、ES細胞やiPS細胞を用いる幹細胞医療技術が現在最も注目される医療戦略の一つです。このような多分化能を有する細胞を移植して失われた神経細胞を補填する研究が精力的に進められている一方、神経系の機能回復には、新生または補填した神経細胞が神経突起を形成・伸長し(神経突起伸長)、正しく標的細胞を見出し(軸索ガイダンス現象)、最終的に標的細胞と結合すること(シナプス形成)の素過程を正しく踏むことが重要で、これらの神経発生の素過程を詳しく理解し、利用することが必要です。成体の脳内には種々の神経突起伸長を阻害する因子(神経再生阻害因子)が存在するため、幹細胞研究のみならず、それらの因子の機能抑制を目指した創薬開発研究を含めた、これら双方の研究成果の連携によって初めて失われた神経機能の再建が実現するでしょう。

私達は、上述のように、新規神経回路形成因子LOTUSを発見しました。LOTUSが示す細胞機能を利用した新しい神経再生医療技術の基盤構築を目的とする研究を行っています。私達の取り組みの最大の特徴は、実際に神経発生の過程(神経回路形成時)で営まれる内在性物質LOTUSの細胞機能を利用し、神経発生の素過程を再現させる再生医療技術を構築することにあります。Nogo受容体のリガンド分子は、Nogoを含めて5種報告されており、全てNogo受容体と結合して神経再生を阻害します。つい最近、私達は、LOTUSがこの神経再生阻害因子5種(Nogo, MAG, OMgp, BLyS, CSPG)全てに対する強力な内在性アンタゴニストとしての機能することを見いだしました。

一方、それとは別の機構によってLOTUSは神経突起伸長促進物質としての機能を有することも、つい最近になって分かりました。私達は、LOTUSの神経発生や神経再生における生理機能についてLOTUSの遺伝子欠損マウスや遺伝子過剰発現マウスを用いて詳しく検討しています。そして、脳虚血(脳梗塞)、実験的自己免疫性脊髄炎(EAE)、脊髄損傷や脳外傷などの各種のモデル動物を用いて神経障害を受けた脳におけるLOTUSの発現変動を調べて損傷や病態との関連を探ったり、LOTUSの遺伝子欠損マウスや遺伝子過剰発現マウスを用いてLOTUSの細胞機能を利用した神経再生医療技術への応用を試みる実験研究を行ったりしています。私達は、冒頭に挙げた中枢神経系の機能再建を必要とする社会ニーズ、それに向けた医療技術としての産業ニーズに十分に応えることができるよう、LOTUSを医療技術シーズとした新たな画期的医療技術の創成に向けた研究を展開しています。具体的な研究内容は直接お問い合わせ下さい。

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